私んちの婚約者
「おとーと?」

神前透也と名乗った男は、ますます皮肉気に口を歪める。

「同い年のな。……あいつは父が不倫して出来た妾腹の子供だから、っぷ!!」

言葉が不自然に途切れたのは、私が思わずその口を両手で塞いだから。ついでにクッションでもう一撃喰らわしておく。
彼はそれをばっちり顔面で受けてから、私に怒鳴ろうとして。

「何する……っ!」

「こっちのセリフじゃ、ぼけぇえっ!!!」

「は!?」

私の毒舌に、透也はたじたじとなった。


「何このご時世に、人の個人情報ペラペラ喋ってんのよ!!機密情報漏洩は命取りだ、覚えとけ!」

「え……すみません」

ぽろりと謝りやがった、このお坊ちゃん。チョロいな、コイツ。


愁也が、神前透也の父の愛人の子供?

愁也から家族の話って聞いたことがなかった。婚約しても、挨拶にも行ってなくて。
でもそれは、私が自分で彼に聞くべきことだ。こんな意地悪大売り出しの弟に暴露されていいわけない。

「最近の若者ったらデリカシーが欠けてるのよね、まったく!」

「いや、お前は俺より若者だよな……?」

「おだまり!」

「はい、すみません」

私の言葉に透也はしゅんとした。あらら、犬の尻尾と耳の幻覚が見えるわ。……ホントにチョロいな。


それよりも。

「ねー神前ってさー、もしかして神前グループ?」


神前グループはアパレルから不動産まで扱う、日本有数の大企業だ。
この部屋。神前グループ系列のホテルのロイヤルスイートだよね……雑誌で見たことある。

透也はふふんと鼻を鳴らした。

「ようやく気付いたか。うちの財力を持ってすれば、お前んちの中小企業なんぞ簡単にぶっ潰せるぞ」

「うわー、親のすねかじって生活するボンボンは、言うことつまんねー」

私の切り返しに、透也はガックリ肩を落とした。

「……苛めすぎた?ごめんね、ヘタレ相手に」

「誰がヘタレだ!!失礼な女だな!!」

透也はバッと顔を上げて、私を睨みつけた。

「とにかくお前にはここに居てもらう!」

だから、なんで。
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