私んちの婚約者
陰謀、婚約者
*side愁也

梓が居なくなって、三日。
俺は出社したものの、苛々とオフィスを歩き回っていた。
さすがに神谷が見かねて、会議室に俺を隔離し、山ほど書類を置いて、

「少し冷静になって下さいね。気持ちは分かりますけど。本当に梓さんの事となると別人ですね、あなたは」

と溜め息をついて出て行った。

「まるで猛獣扱いだな」

神谷は出るときに会議室のドアに『危険!立入禁止!』と書いた紙を貼って行った。失礼な奴。


大学の講義後に消えた梓。
タクシー乗り場で氷崎甲斐を見送った彼女が、何者かに連れ去られたとの目撃情報はあった。
けれども何の要求も無い。身代金も、その他も。

高宮社長と警察には連絡をした。
氷崎甲斐は既に戦地へ行ってしまっていて、足取りは掴めない。
心当たりは探しまくったし、打つ手が無くなっても俺は必死で彼女の安否を探っていた。


「梓……」


そのとき、目の前で俺の携帯が鳴った。


“着信 梓”


「梓!?」


飛びつくように出れば。

『……随分、必死だな』

笑いを含んだ男の声。

「……誰だ」

いや、知ってる。この声。俺の声にそっくりな。

『久しぶりだな。……親愛なる弟、とでも言っておくか?』


神前蓮也。
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