私んちの婚約者
「なんの真似だ。神前には一切関わらないと言った筈だ」

どっから俺の所在を嗅ぎつけたのか、何年か前から、この異母兄から散々つまらないスカウトを受けていた。
すなわち、『お前は神前の一員なのだから、俺の為に働け』ってやつだ。

今回の犯人はこいつか。

「……梓は」

電話の向こうで、蓮也がクスリ、と笑う。


『勇ましい婚約者だな?舌を噛まれた』

「!!」


その意味に気付いて、一瞬、怒りに目が眩んだ。

「……てめぇ、今後梓に指一本でも触れたら殺すからな」

犯罪者宣言。今あいつが目の前にいたら、絶対殴り殺してる。


『そうなる前に、例の件を承諾してもらおうか。……神前グループを継げ』

「馬鹿かアンタは。継ぐな、ならともかく」

愛人の子だと、散々蔑んでおいて。一方で神前に戻れという。


『もちろん、一時的にだ。……神前グループを継いで、俺に引き渡せ』

馬鹿馬鹿しい。

「継ぎたいなら直接あんたが継げばいい。何で俺を経由する」

俺の問いに、忌々しげに蓮也が答えた。



『もう父が収まらないんだよ。一度お前に継がせないことにはな。お前を始末してやろうかとも思ったが、あの頑固親父め、お前が社長にならないなら、俺達どちらにも財産は渡さないと息巻いてな』

今サラッと俺を始末するとか言わなかったか、こいつ。神前蓮也なら有り得る。いずれにしても迷惑千万だ。

『後継者の指名権限は社長にある。お前が継いで、俺に寄越せ』
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