私んちの婚約者
勝手なことを。母を追い出しておいて、俺を駒にするつもりか。

『お前に拒否権はないよ。あの威勢のいい婚約者がこちらにある限り』

「梓を返せ」

ムカつく。

『どちらにしろ、神前の後継者には相応しい家柄の女を用意してやる。あれは諦めろ。いつまでも無事かわからんぞ、なにせ透也が執心しているようだからな』

透也?
確か俺と同じ歳の弟だったよな。蓮也と何度か俺に会いに来たことがある。


「透也って、あのお坊ちゃんだろ?あんなヘタレに梓は落とせないね」

『お前とそっくりな顔をしてるからな、彼女も多少ほだされるかもしれん』


……は?


透也の顔を思い出す。

無くも、ないかもしれない……。


甲斐の時も思ったけれど、梓はどうも他人に甘いとこがある。

……なんだか別の意味で心配になってきた。

早く、逢いたい。


もう梓の事で頭がいっぱいになった俺に気付いたのか、蓮也は呆れたように言う。

『お前には神前グループの椅子よりあの小娘か。
……なら、お前は余計に、あの小娘を手放すべきだな』



「どういう、意味だ」

『後でゆっくり話してやるさ。迎えをやる。支度しておけ』


蓮也の皮肉気な声を最後に電話は切れて。
俺は携帯を握りしめた。


梓。


今、行くから。
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