私んちの婚約者
side梓

「ねぇ、いつまでそこに居るの?」

私は黙り込んだままの透也に話し掛けた。
蓮也が出て行ってから、彼は同じ場所で立ち尽くしたまま。

「おとなしすぎて気味が悪いよ、透也」

透也はハッと私を見た。

「し、失礼な女だな!本当に……!」

だけどすぐに俯いてしまう。

なんなのよ、もう。
愁也の顔してるくせに、グチグチと。

「それ、言いがかりだろう……」

「あら、聞こえてた?ごめんねぇー」

だんだん面倒臭くなってきた私。
だって愁也と同じ年の異母弟ってことは、私より5歳上だよ?放っといて良いよね、いい大人なんだから。
それよりテーブルにあるあの美味しそうなクッキー食べて良いのかな。

なんて考えていたなら。
しばらくして、彼は何か思い詰めたように私の前までスタスタ歩いてきて。

私の頬に手を当てた。
唇を、指でなぞる。

「透也、セクハラだよ。……殴るよ?」

「兄さんには、キスさせたくせに」

ボソッと呟く彼。


はあ!?


「させた、じゃなくて無理矢理された、でしょ。どこに目ぇつけてんのよ!」

ブラコンという名の変態フィルターを解除しろ!今すぐに!!

「だあいすきでなーんも逆らえないお兄様に、キスされてごめんねぇ!?出来れば私も記憶を消し去りたいわあ!」

私の怒りなんて聞こえないのか、透也は切なげに私を見る。

「違う……」

な、なんでしょうか、この妙な雰囲気は。
なんか凄く悪いことしたような気分にさせられるんですけど!
誘拐されたの私なのに!
ずるい、愁也の顔してるからって!



「愁也、愁也って、……うるさい」

透也の顔が私に近づく。


え?何これ。
< 117 / 274 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop