私んちの婚約者
そんな顔しないで。
私の為だってありあり書いてある。
いくら私が鈍感極トロだって、わかる。

愁也は、私を何から守ろうとしてるの?

「そんなことのために、愁也と別れるつもりなんてないんだから」

守ってくれなくて良い。
ただ傍に居させて。


けれど、彼がゆるく首を横に振ったことに、愕然とした。


震えるな。
泣くな。

「ーーっ」

私は思いっきり背伸びして、彼にキスをする。

『色仕掛けで、繋ぎ止めてみせてよ』

愁也の言葉が胸に残ってるから。


ふくらはぎがつりそうなほど痛くて。
背の高い彼が、キスの時はいつも屈んでくれていたことに、その優しさにいまさら気付いて、泣きたくなる。

いつもより冷たい唇が、囁いた。


「ごめん……」


離された身体。空を切った、腕に。

私はとうとう溢れてくる涙を抑えることが出来なくて。



「さよなら、梓」



両手で、耳を塞いだ。
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