私んちの婚約者
「だいたいなんであの性悪長男は、あんなに愁也を憎んでるの?愁也のお母さんが、アンタらのお父さんの愛人だったのはわかったけど、姿を消したんでしょ?」

透也は静かに笑った。

「一度壊れた家族なんて、元には戻らない。母はずっと病気がちで、最期まで父と愁也達親子を憎んでた。蓮也兄さんはそれを傍で見てたから。今更父が愁也に執着するのが許せないんだろ」

透也達の母親は亡くなったんだ。
悲しい話だと思う。蓮也にも透也にも同情するべきとこはある。
でも、私にとってはそれだけのことだ。

「でもそんなの、愁也には関係ないじゃん……」

愁也にはなんの責任もない。
彼が巻き込まれるのは、理不尽だと思う。

「アンタら男共は難しく考えすぎなのよ」

そんなんで、どうして私と愁也が別れなきゃならないの。

あくまでも愁也の味方をする私に、透也は口を尖らせて言った。

「梓、お前振られたんだろ」

ぷち。

あ、いま何か切れたぞ。

「ウルサいわ、馬鹿あ!」

私が投げた羽毛たっぷり枕が、透也の顔面に命中した。ふわふわだろうが、速度つければ結構な武器だ。おまけに中身が飛び出して、ちょっとした嫌がらせにもなる。

「痛い!!」

「八つ当たりだよ、ごめんね!!」

噛み付くように叫んだ私を、透也が冷や汗と共に見る。

「そんな謝罪の意のないごめんは初めて聞いたぞ……」

私は透也を睨みつける。
口は災いのもとって言葉を教えてやりたい。スネちゃま知らなそうだし。

悔し紛れに言ってみる。

「振られたって嫌われたわけじゃないもん!愁也なんて私の事が好きで好きで仕方ないんだからっ!!」

「その自信はどこからくる……。わからないじゃないか、お前乱暴だしなー。兄さんなら選りすぐりの令嬢を用意できるだろうし」


びくん、と身体が震えた。
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