私んちの婚約者
透也は俺を責めるような瞳で見て口を開いた。

「愁也、お前何をしてるんだよ……」

「お前に何がわかる」

立ち上がって透也の喉元を掴み上げ、思い切り壁に押し当てる。
彼がゴホ、と咳き込んだ。

「お前に言われなくたって、俺が一番梓を想ってるんだよ。そもそもお前らが巻き込んだことだろ」

透也を睨みつければ、彼は俯いた。
俺は手を放す。

「顔上げろ馬鹿。同じ顔がそんな情けない顔すると、気分が悪い」

打たれ弱いお坊ちゃんだな。

「梓にも言われた……」

うなだれる透也がポツリと零す。


ああ。

梓は厳しいから、きっとこいつを叱って。
優しいから、きっとこいつを諭したんだろう。

……てことは、こいつはあれからずっと彼女と居るのか。


「……ムカつく」

「は!?」

怯えた顔で、透也が俺を見る。
さっとクッションを手に持ったところを見ると、さぞ梓に物を投げられたに違いない。

……目に浮かぶ。


だけどそんな姿さえ。


可愛くて、
愛しくて、

強情で、
鈍感で、
泣き虫で、

誰よりも大事な、


梓。

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