私んちの婚約者
透也が俺を見て、探るように言った。

「お前、蓮也兄さんに脅されたんだろ?婚約破棄して梓を遠ざけないと、他の奴らに梓を狙われるって」

弱点があれば、突いてくるのがゲームだ。
蓮也がしたように、他に神前の椅子を狙う奴らに梓を人質に取られる可能性がある。

そして、他の奴らが皆、蓮也のように梓の命の保証をしてくれるとは限らない――。

俺に出来ることは梓を遠ざけて、さっさと蓮也の言うとおりに社長に就任し、その椅子を彼に譲り渡すこと。
そうすれば自由の身。

だけど、何年かかるんだ?
その間、梓を縛っておくことなんて出来ない。
だから待ってて欲しいとは言わなかった。
……否、言えなかった。

けれどこの先、梓を失ったままで、俺は耐えられるのかな。

「自信ねぇなー……」


もうあのキスが恋しいのに。
あの泣き顔を、抱き締めたいのに。

何もかも今すぐには叶わない。

こうしているうちに、梓が他の男を選ぶ日が来るかもしれない。


……としても。
とりあえずコイツだけには渡す気はないけどな。

「透也、梓に手出したらシメるよ?」

「……肝に銘じます」

引きつった顔をして返事をした透也だけど。
ふ、と苦笑いした。

「でもな、実はさあ、俺、梓に告ったんだよ。つっても流れでほのめかしただけだけど」


思いがけずドクン、と心臓が音を立てた。

梓が他の男のものになる日が、一気に現実味を増した気がして。
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