私んちの婚約者
「でも、駄目だった。同じ顔なのに、梓はお前を諦めてないって」

透也から聞いた梓の真意に、嬉しさと、焦りと、苦い気持ちが入り混じった。
俺はどこまでも現金だ。

「まあこのまま傍に居れば、いつか成り代われるかもしれないしな。こればかりはお前に似た顔で良かったかも」

……こいつ。やっぱりムカつくな。

「しばらく見ない間にしたたかになったじゃないか、透也。俺に喧嘩を売る気?」

矛盾してるのはわかってる。
梓を手放しておきながら、誰にも渡したくないなんて、そんなこと俺に言う権利はない。

透也が俺の顔を見て笑う。
ああ、ムカつく程、俺に、似てる。

「梓には手を出さない。でも彼女が俺を選べば、文句ないよな?」

生意気に言う透也へ、手近にあった時計を投げつけてやった。

「痛い!……ったく、二人揃って同じことしやがって」

……やっぱり梓に何か投げられたな、コイツ。

透也は時計がぶつかった頭を押さえながら、恨めしそうに言って。
けれど真剣な表情で俺を見据えた。


「そんな顔するなら、足掻いてみせろよ。梓はそうしてる」


え?


「梓が、何か……」


意味を問う間もなく、透也は部屋を出て行った。


梓……。
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