私んちの婚約者
**
神前グループ社長就任パーティーにて。
スーツに身を包んで、真っ直ぐ背筋を伸ばす愁也の姿は、やっぱり一際カッコいい。

……無駄に。

「素敵ねぇ」

なんてご令嬢の囁き声が聞こえて。

ダメダメ!!あれは私のなんだからね!
そんじょそこらのお嬢様には手に負えない俺様なのよ!?

そうやって、抱きしめて独り占めしたくて。

今こうして目の前に立つ彼を見れば
……泣きたくなる。


「愁也、大好きだよ」


私の初めての告白に、愁也は茫然として。

それからその顔が、ほのかに赤くなった。


「落とされた……」


かすかに言われた言葉と。
その瞳に。
ぞくり、と甘い痺れを感じる。

今すぐにでも、飛びついてしまいたい。

そのとき。
ざわり、と会場がざわめいて、振り返ると一際重厚な雰囲気の男性が入ってきた。蓮也が隣についている。


「神前会長……」


愁也の呟きを耳にして。私は決意を固める。

「見ていて、愁也。私があなたを取り返してあげるから」

私の言葉に、愁也が目を見開いた。

「何をする気……」

「透也、しっかり捕まえといてよー」

「了解」

私の命令に、透也が愁也を羽交い締めにする。

おお、同じ顔が二つ。
いやいや、そんなこと言ってる場合じゃないな。

「梓!」

愁也の声に振り返らず、私は足早に神前会長を目指す。
私に気づいた蓮也が、驚いた様子で硬直した。

ふん、そこで止まっちゃうなら私の敵じゃないのよ!



「神前会長――」


張り上げた声に、その人が振り返った。
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