私んちの婚約者
「梓!」

愁也が私と会長の間に滑り込んで来た。私を抱き締めるように、庇う。
透也ってばもう倒されちゃったの?まあスネちゃまにしては頑張ったかな。後で褒めてやろ。

「君が、愁也か」

愁也を見て、目を細める神前会長。けれど彼は神前会長に、冷たい視線を返す。

「あなたがどんなつもりか知りませんが、いまさら父親面して後継者扱いされても迷惑です」

私を引き寄せて、しっかりと抱き締めたまま、はっきりと言う愁也。

「おかげで俺の大事な婚約者が、酷い目にあわされた」

……いや、あのね?
ロイヤルスイートでのんびりさせてもらっただけよ?
まあいいや、黙っとこ。なんか恐いし。私も空気読まなきゃな。

「だいたい姿を消した愛人が、いつまでもあなたを想って、不憫に暮らしているとでも?生憎だが母はすぐ再婚して、今でも相手とラブラブで一緒に海外飛び回ってますよ。俺も実の息子以上に可愛がって貰ってるし」

あ、あれ?そうなの?
私がまだ愁也のご両親に挨拶できてないのって、ラブラブ海外巡業とかそんな理由?

私が初耳な情報にビックリしていると、会長もなんだか戸惑った顔をしてるような……。


「幸せに育てられて、それなりに順風満帆に生きてきて」

愁也の手が私の手に絡まった。

「大事な人も出来た。こんな風に巻き込まれて迷惑です」


ああ。

愁也もずっと、会長にこう言う機会を待ってたんだ。
独りで耐えて。独りで辛い選択をして。
繋がれた私の手から、彼の優しさが伝わる。

「もう放さない、梓」

私を見て、愁也が囁いた。
神前会長はじっと愁也を見て。それから私を見た。

「高宮梓さん、なかなか勇ましいお嬢さんだな。君ごと愁也を神前に貰うわけにはいかないかな?神前グループの社長夫人には興味は?」

「ありません」

私は即答する。

「松坂牛緊張して食べるより、グラム98円でお腹いっぱいになりたい派なので」

私の滅茶苦茶な喩えでも神前会長には伝わったみたい。
会長は鷹揚に頷いた。


「そうか。私はとんだ思い違いをしていたようだな」

ふ、と笑う姿が。
愁也の柔らかな笑顔によく似ていて。


「神前を継ぐ必要はない。すまなかったな、愁也」


会長の背後で、絶句する蓮也と、顎を押さえながらもニヤリとする透也を見つけて、私はふふん、と笑ってみせた。

ちっぽけな小娘でも、やるときゃやるのよ。


ざまあみろ!
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