私んちの婚約者
目の前に座った、愁也によく似た弟に。

「何しに来たの?透也」

私がきょとんと聞けば。

「何しに来たの?透也」

完全零下、冷ったい目をした愁也が言う。
同じ台詞なのにこうも違うか。


「何って、家出してきた」

ぼそりと落とされた透也の言葉に。
愁也は冷たい笑いを投げ、私は首を傾げる。

「あははは、冗談キツいな。箱庭育ちのボンボンに家出なんかできるかよ」

「せいぜい“初めてのお遣い”程度だよね」

……あ。
透也へこんだ。


「本当に、家出したの?」

うなだれたままの透也がちょっぴり可哀想になり、私は優しく聞いてみる。
愁也が気に入らない、とばかりに眉をひそめた。
こらこら、ヤキモチ妬くな。

「……本当だよ。蓮也兄さんに、梓の手助けをしたのがバレて」


あの騒動で、結局は蓮也が社長に就任することになったらしい。
けれど、プライドの高い彼には“愁也の代わり”に指名されたと、ひどく自尊心を傷つけられたんだとか。

……相変わらず面倒くさい男だな。
いいじゃん、結果的には望み通り社長になれたんだから。

『これで蓮也兄さんが神前グループの社長だ。もう愁也と梓のことは忘れよう』

そう言った透也に。

蓮也は冷たい瞳で裏切り者、と罵って吐き捨てたとか。

『俺は、自分で勝ち取れたんだ……!自立もできないお前に偉そうに言われる筋合いはない』


「それは正論だな」

「完全に八つ当たりだけどね。そりゃニートのスネちゃまには言われたくないわよねぇ」

愁也と私の言葉に、透也はがくりと頭を落とした。
本当に打たれ弱いな。

こんなんで現代社会渡って行けるのかしら、この男は。
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