私んちの婚約者
透也が来て、三日目の夜。
私は愁也に聞いてみた。

「蓮也に連絡するの?」

「関わりたくない」

バッサリと言う彼。
とりあえず愁也の私室を透也に貸して、愁也は私の部屋に来ていた。

「兄弟仲良く寝ればいいじゃん。“あ、ベッドどうぞ”“いやいや、僕が布団で寝るからさ”とかやったらいいのに」

「心底気持ち悪い」

愁也は本当に蒼白な顔で嫌がった。
……そんなに嫌いなんだあ。

「こっちなら気持ち良いし、幸せだもんな」

愁也が私のベッドへ潜り込む。

「えぇ~狭いよぉ~」


私のベッドは普通のシングル。
セミダブルの愁也のベッドならともかく、私んとこはかなりがんばらないと、……落ちる。

「だからもっとくっつかないと、だろ?」

愁也が笑って私を引き寄せた。優しいキスが降ってくる。
お休みのキスにしては、少々濃厚なそれに、私は顔が熱くなってきて。

「……ねー、透也居るんだよ?」

「ん、いっそ色々聞かせて追い出すってのもアリかも」

……意地悪だなあ。


服の下に滑り込んできた手から逃れようと身体をよじれば、ますます愁也のスイッチを激打してしまったらしい。
無駄な抵抗、とばかりに彼の手が私を撫で回してゆく。

うーん。
これは、ちと、……本気っぽい?

「……ッ、だめって」

甘ったるい声が漏れて。
愁也が目を閉じて、私の胸元に唇を寄せ――


ーードンドンドンッ!!


「ちょっと!隣の者ですけど!いま何時かわかってる!?」

「……チッ」

舌打ちは私のものか愁也のものか。
大企業の御曹司のくせに、築25年のアパート暮らしみたいなセリフを吐いてやがるわね、あいつ。

「ほらね、あいつがいるといちゃつけない」

重い溜息をついて、ごろりと身体を仰向かせた愁也は、視線だけで私を見た。
うう、いちゃつけないのにそんな色目を使われるとなんだか拷問です。

「透也はどうして、うちに来たのかな」

「そりゃ梓のことがーー」

私の疑問に、愁也が返事をしようとして。
言葉を途切れさせた。

言葉を躊躇うなんて、愁也らしくないけれど。
結局彼は瞬きをしただけで続きを言わなかった。
代わりにその腕が私に巻き付いて、唇に触れるだけのキスを落とされる。

「今日はこれだけ、ね」

「はあ〜い」


私は早くも透也を拾ったことを後悔し始めた。
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