私んちの婚約者
――私、今なにしてる?

ほんの数秒だったはずの、けれど長く永く感じたキス。
絡められた、熱と。唇が、離れて。


「この、大馬鹿者おっ!」


――バシィン!!


私が振り上げた雑誌が、透也の頬を殴りつけた。
一度はその衝撃に揺らいだものの、透也は構わず私を押さえつけたまま、首元へ顔を落としてくる。鎖骨にカリ、と歯を立てられた。

「痛っ!こら、喰うな!」

「……んだよ。いいだろ、愁也とやってるって思えば」

投げやりに呟く透也の頭を、もう一度――

――ガツンッ!!!

「痛い!さすがにカドは酷いだろ!?」

「あんたがあまりにも大馬鹿者だからよ!!!」

私は怒りにぶるぶる震えて、透也を睨みつけた。
畜生、可哀想な子犬だと思ったらいっちょ前に狼になりやがって!調子に乗るな!!

「愁也、愁也って!なんであんたは愁也になろうとすんのよ!!
比べられるのが嫌なクセに、なんで自分から同じもんになろうとすんの!?」


あの表情も。
キスの仕方も。
全部愁也のもの。


「透也の言葉でちゃんと言われなきゃ、私だって何も返せないよ!!」


愁也のコピーなんてごめんだ。
本物は唯一無二なの。
代わりなんて最初から要らないんだ。


「なんであんたはそう馬鹿なの!!」

「ひでー……」

透也は茫然と聞いていたけど。


……やがて苦笑した。


「本当に、かなわないよな、お前には……」


透也がゆっくりと私を放した。

ごめん、と囁かれた言葉と。
かすかに潤んだ瞳に免じて。

「ふん!!さっきのキスはレポート代にくれてやるわ!二度とすんなよ、馬鹿」

つん、と顎を上げて、私は部屋を出て行く。


自室に戻ってから、へなへなと床に座り込んだ。

「あ~……ヤバかった」

ヤバかったのは、透也。
だけど、それに愁也を感じてしまった、私自身。

『ドツボにハマるな』

本当だよ、マキ様。

「も~勘弁してよ~フェロモン兄弟……」

私はがっくりと膝をついた。
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