私んちの婚約者
激怒、婚約者
**

「ただいま」

「おかえり……」

数十分後、帰宅した愁也の顔が見られず、なんとなく目を逸らしてしまう。
うぅ、罪悪感だよぉ。

「なに、梓、元気ない……」

愁也が私の顔を覗き込んで、その言葉が途切れた。

ん?

思わず愁也の顔を見れば、彼は私の首元をジッと見ている。

ん?

「歯形」

あ!!

思わずバッと手で鎖骨を押さえた。
サーッと自分の顔が青ざめるのがわかる。

このめざとい婚約者は、低く唸るように口を開いた。

「透也か」

怖い恐いコワイ!!!

「いやあの、駄犬にかじられてね?ちゃんと調教しておいたからね?」

だらだらと冷や汗が背中を伝っていく。
あああ、こんな時なんて言うの?言えるわけが無い!
私のその反応に、愁也は確信した様子で。


「――透也アァッ!!!」


うわあああっ!
愁也がキレたあ――!!


恐怖に思わず固まった私の横をすり抜けていく、愁也。
ガン、と扉を蹴り開けて自室に入っていく。

ヤバい、死人が出るよぉお!
明日の朝刊とか、写真週刊誌とかに、『イケメン会社員、同じ顔の異母弟を惨殺』って見出しが出ちゃうかも知れないっ!

愁也なら写真映りも良さそうだけど……。


――ってそんな場合じゃねえぇっ!!

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