私んちの婚約者

「……」

「ごめん」

「……」

「悪かった」

「……」

「すみません、申し訳ありません、どうぞお許し下さい、梓様!」


とうとう私に向かって頭を下げた愁也。
私は仁王立ちして膨れっつらで彼を見下ろした。

「もうしません、は?」

「え、結構好きじゃないの?拘束プレイ」

「ひとの話を聞こうよ、ね、愁也さん」

冷たい目で見てやれば、愁也は気まずそうに咳払いした。

「もう少し後先考えようね!」

愁也も私には言われたくなかっただろう。いやに衝撃を受けた顔をした。失礼な。
彼は天井を仰いでふぅ、と息を吐いた。

「我を忘れて梓にあんなことしたのは悪かったよ。だけど透也には謝らないからな」

う。

「それならさ~私も結構キッツいこと言っちゃったの。多分かなり落ち込んでるよ」

大丈夫かな。
今頃どっかのビルから飛び降りたりしてないでしょうね。

「そんな度胸もねぇよ」

愁也さん、ブラックモードが抜けてませんよ。

「でも、本当に気をつけろよ、梓。アンタは俺だけのモノでしょ?」

ソファに座った愁也が、立ったままの私を抱き寄せて、腰を抱いた。


「他の男に触らせるなよ」


呟いた彼の声が、辛そうに響いて。
私は思わず愁也の頭を抱き締めた。

「ごめん、ね?」

透也のせいだけじゃない。

避けられた筈なのに、愁也と錯覚して、みすみすキスをさせたのは確かに私が悪いんだ。
だから、私は透也を見捨てられない。
< 157 / 274 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop