私んちの婚約者
ホテルに着いて荷物を放り投げて、窓を開ければ眼下に広がる イタリアの街。

「わあ……」

思わず絶句。
愁也が後ろから寄ってきて、私を抱きしめた。

「気に入った?」

まだ興奮で口もきけない私は、ぶんぶん首を縦に振って肯定する。
すると彼はにっこりとその手に持ったものを差し出した。

「じゃあこれ、読んで」

は?

愁也に渡されたのは小さなノート。
ページを開いて読めば。

『・知らない人についていかない。
・特に男は知人でもダメ。
・食べ物に釣られない。
・人間は拾わない。
・酒を飲まない』

以下延々と……。

「……愁也、これ何?」

旅のしおりですか。
それにしては禁止事項しか書いてないんだけど。

「ほんっとーにアンタは、目を離すと何をするかわからないからな」

にっこり。けれど目が、目が笑ってない……。

「なんか飛行機で黙々と書いてたのはこれ!?これなの!?」

仕事かと思って邪魔しなかったのに!!
愁也は私の不満なんて全く意に介さない。

「ああ、でも、酒は俺と二人きりなら呑んでもいいよ。せっかくのイタリアだもんな、ワインが美味いし」

そこで彼はクスリと笑った。


「酔っぱらった梓はすっごく可愛いしね」

「ほう、いつもはたいしてかわゆくもないと」

私はじとっと彼を睨んで、口を尖らせた。
愁也はそこにチュ、と軽くキスをして。

「可愛いよ。……滅茶苦茶にしたいほどね」

う、う、うわあああっ。
な、なんか極甘なんですけど!?


「た、体温計……!熱でもあるの?それともイタリア特有の病気!?」

「失礼だな。正直に言ったのに」

どうしちゃったんだろう。旅先で解放的になってるのかな。
真っ赤になってオロオロする私を見て、ついに愁也は爆笑しだす。
くぅ、からかわれた!!
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