私んちの婚約者
「シューヤ!」

一触即発な空気を、軽快な声で割り込んでかき消してくれたのは、イタリア人の女性スタッフだった。
愁也にニコニコと近付いて早口で何かを言う。
どうやら他のスタッフが話をしたがってる、みたいな感じ。
あっという間に彼女が強引に腕を引いて、スタッフの輪に愁也を連れて行った。


「シューヤはこちらのスタッフにもとても人気だよ。特に女性にね」

レオがわざわざ私にそう言って、顎で愁也を示す。
確かに彼のまわりには女性スタッフだらけ。

ふ~ん。モテモテですこと!

「気にならないの?」

レオが私をからかうように言うから。
途端に負けず嫌いの血が騒いで、

「皆に嫌われてるよりいいんじゃないの?」

って言ってやる。

あの日本人め!とか無くて良かったじゃん。
……そりゃあ少しはムカッとくるけどさ。

そうこうしているうちに、視線の先で、愁也の耳元に唇を寄せて、囁く綺麗なイタリア人女性が居た。
ちょ、ちょっと、それ近い!近いでしょ!?
う~!……だ、だいぶムカっとくるぞ!

「ああすみませんね!こらえ性無くて!心狭くて!私の心はどうせミニミニサイズよ!!」

レオが笑う。

「アズサ、面白いね」

それはヤキモチ妬いて、百面相する私が滑稽だと!?

ムッとして、愁也の傍に行こうと近付いたなら。
そのとき、ちょうど愁也の携帯が鳴ったようで、彼は携帯を取り出して話し始める。


「エリカ?」


不意に聞こえた、名前。

女性の名前。


イタリア語、しかも早口で凄く嬉しそうに喋る愁也。

「エリカって女と明日会う約束してるみたいだよ」

レオが聞き耳立てて、
またわざわざ私に報告する。

「仕事でしょ」

「社内スタッフも取引先にもエリカなんて居ない」

レオが一層意地悪く微笑むのを感じて、思わず殴り倒したくなってきた。
ぐーぱーと手を握っては開き、ウォーミングアップを始めた私に、レオが悪戯っぽく笑う。

「ねぇ、明日彼を尾けてみない?」

突然の彼からの提案。

「は!?別にそんなん要らないし!」

本人に聞けばいいことじゃん!

「シューヤが正直に言うかなあ」

「だとしても自分で行くもん。何であんたに頼らなきゃならないのさ」

「だってアズサ、イタリア語も地理もわからないだろ」

う。それは、その通り。

「じゃあ、明日一緒に探偵ゴッコね?」

「はあ?ねぇあんた楽しんでるでしょ!人の不幸に蜜感じるタイプか!」

感じ悪いどころか、性格悪い!!

「シューヤの知られざる女性遍歴が見えちゃうかもね?」

「あんたすげー日本語知ってるわね」


私は動揺のあまり、レオの持っていたワインをひっつかんで、一気に飲み干した――。
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