私んちの婚約者
その夜、とうとう愁也は帰ってこなかった――。
*
「うぅ、朝日がまぶしーぜ……」
一睡もできなかったせいか、苛々するほど燦々と差し込む光にめまいがする。
朝一で父から気遣わしげに電話が入って、昨夜は父が借りているイタリアの家に、愁也を泊めたことを聞いた。
彼女の家に行ったんじゃなかったことに、ひどくほっとしながらも。
『ねぇ梓ちゃん、まさか破局の危機なんてことは……』
そこまで聞いて、
「ぎゃああああっ!!」
ガッチャン、と叩き付けるように電話を切った。
悪い、父。今の私にはシャレになんないの――!!
私が一方的に腹を立てたり、愁也が不機嫌になることはあっても、本気で喧嘩したのは初めてだ。
もちろん、昨夜のは私が悪い。
……のはわかってんだけど、『エリカ』のことを考えたら、どうしても素直になれない。
「ちゃんと聞くつもりだったのになあ」
うう、自分の短気っぷりが悲しいよぉ。
バタンとベッドに突っ伏したならば、ちょうど私の携帯が鳴った。
この、番号は……。
「はいはぁ~い……梓ちゃんはただいま絶賛落ち込み中でございます……」
『Buongiorno.アズサ。今日もデートしない?』
ぐだぐだの声で出てやれば、差し込む太陽よりウザい、イタリア男。レオの軽快な声が聴こえてきた。
「あんたは仕事をしなさいよ」
まだ勤務時間中だろが。
マリアの父がイタリア支社開発部長なら、兄のこいつも部長令息のはず。
昨日もサボったしさあ。いつ仕事してんの?
呆れて言えば、レオが電話の向こうで笑った。
『元気ないね、シューヤと喧嘩でもした?』
元はといえば、あんたが尾行なんて言い出さなければ……!
いやせめておいしいご飯で私を釣ったりしなければ……!
最終的には酒さえ呑ませなければ……!
あ、だんだんレオが諸悪の根源って気がしてきたぞ。
今なら地中海までぶっ飛ばしてやれそう。
レオの声が妙に嬉しそうなのがまた一段と怒りを誘う。
『あ~あ、喧嘩したんだ』
せめてコイツが日本語を話せなければ……!
「ああ、したともさ!ノン、ミ、テレーフォニ ピュ(二度と電話すんな)!!」
おお、初めて役立った、食事以外のイタリア語。
ブチッと電話を切って、ついでに携帯の電源も切って、ベッドに放り投げる。
「愁也の馬鹿」
……私の馬鹿。
*
「うぅ、朝日がまぶしーぜ……」
一睡もできなかったせいか、苛々するほど燦々と差し込む光にめまいがする。
朝一で父から気遣わしげに電話が入って、昨夜は父が借りているイタリアの家に、愁也を泊めたことを聞いた。
彼女の家に行ったんじゃなかったことに、ひどくほっとしながらも。
『ねぇ梓ちゃん、まさか破局の危機なんてことは……』
そこまで聞いて、
「ぎゃああああっ!!」
ガッチャン、と叩き付けるように電話を切った。
悪い、父。今の私にはシャレになんないの――!!
私が一方的に腹を立てたり、愁也が不機嫌になることはあっても、本気で喧嘩したのは初めてだ。
もちろん、昨夜のは私が悪い。
……のはわかってんだけど、『エリカ』のことを考えたら、どうしても素直になれない。
「ちゃんと聞くつもりだったのになあ」
うう、自分の短気っぷりが悲しいよぉ。
バタンとベッドに突っ伏したならば、ちょうど私の携帯が鳴った。
この、番号は……。
「はいはぁ~い……梓ちゃんはただいま絶賛落ち込み中でございます……」
『Buongiorno.アズサ。今日もデートしない?』
ぐだぐだの声で出てやれば、差し込む太陽よりウザい、イタリア男。レオの軽快な声が聴こえてきた。
「あんたは仕事をしなさいよ」
まだ勤務時間中だろが。
マリアの父がイタリア支社開発部長なら、兄のこいつも部長令息のはず。
昨日もサボったしさあ。いつ仕事してんの?
呆れて言えば、レオが電話の向こうで笑った。
『元気ないね、シューヤと喧嘩でもした?』
元はといえば、あんたが尾行なんて言い出さなければ……!
いやせめておいしいご飯で私を釣ったりしなければ……!
最終的には酒さえ呑ませなければ……!
あ、だんだんレオが諸悪の根源って気がしてきたぞ。
今なら地中海までぶっ飛ばしてやれそう。
レオの声が妙に嬉しそうなのがまた一段と怒りを誘う。
『あ~あ、喧嘩したんだ』
せめてコイツが日本語を話せなければ……!
「ああ、したともさ!ノン、ミ、テレーフォニ ピュ(二度と電話すんな)!!」
おお、初めて役立った、食事以外のイタリア語。
ブチッと電話を切って、ついでに携帯の電源も切って、ベッドに放り投げる。
「愁也の馬鹿」
……私の馬鹿。