私んちの婚約者

「ここかぁ」

マリアに描いてもらった地図を見て、私は父と愁也の仕事場に来ていた。
白い壁の真新しいビル。父の支社。
親睦会をしたレストランから本当にすぐ近くだった。

とにかく謝っちゃおう。
それで事情を聞けばいい。
いつまでもぐるぐるしてたら、本気で溶けるしね!


思い切ってビルに入って。廊下を進み、オフィスを覗き込めば、デスクでパソコンに向かう愁也が見えた。
私に気付いた男性スタッフが愁也に呼びかけて、こちらを指し示してくれる。

「梓……」

私を見て、驚いたようにこちらへ向かってくる愁也。
会社まで尋ねてくるとは思わなかったみたい。

「どうかしたの?」

だけどこころなしか、まだ彼の表情が固い。
お、怒ってる、よねぇ。


「うん……」

よおっし、一気にいくぞ!

「愁也っ、あのねっ」


「あっれぇ、アズサ!僕とのデート、行く気になってくれたんだ?」


タイミング悪く割り込んだ、レオのムカつく程、底無しに明るい声。
あんたはまた仕事をしとらんのか!!この給料泥棒め!

「ち、ちがっ!」

否定しようとしたけど、それより早くレオが私の肩を抱いた。

「さあ行こうか、ハニー」

こいつ、耳ついてんのか!?

「聞け!人の話を聞け!」

でなきゃ寝とけ!!!

振り上げた拳がレオの顎を直撃した。
ふ~っ、この大事な局面で、余計な力を使わせやがって!
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