私んちの婚約者
「……だって、あんな夜中まで何度も電話して」

言い訳のようにぶちぶち言ってみると、エリカが苦笑した。

「シューヤってば、アズサに内緒だとかで連れて来ないから仮縫いも出来ないし、オマケに今回の滞在中に絶対完成させてくれって言うから、昼夜構わずに、何度も何度も打ち合わせしたのよ?

デザインから生地まで、シューヤがあなたのために選んだの」

「梓がレオナルドと俺を見た日は、ドレスがほぼ出来上がったからって、仕上げをチェックしに来たんだよ」

ドレスサンプルを見ながら、デザインや素材の修正やら、細かい箇所の指定をしてたとか。

聞けば祖母が日本人だという、エリカ。
彼女は日本語が喋れるのに、わざわざイタリア語でやりとりしてたのも、私にバレないようにするため。


……な、なんてこと。紛らわしい……!!


「私、バカみたい……!すっげー悩んだのに……っ」

ぐるぐるして。やけ食いして。殴り倒したのよおぉ。
やっぱり勘違いは、かなり恥ずかしくて。

……もの凄く、嬉しい。


愁也が私の手をとって、ドレスの前まで引き寄せた。
掴んだままの私の手の甲にキスを落として、芝居がかった様子で言う。


「これは君のものだよ、愛しい婚約者殿」


君、なんて。
愛しい、なんて。
気障な台詞と動作に、つい愁也の手を振り払って自分の頬を押さえる。


じゃああんなに愁也が、嬉しそうに、楽しそうに話してたのは、
……全部私のウェディングドレスのことなの?

……や、ヤバい。顔が、ゆるんできた。


「まあ、誤解させるような行動したのは悪かったけど、まさか浮気を疑われるとは思いもよらなくて」

愁也が呆れたように言った。


う。これはやはり。
く……。仕方あるまい……!




「――申し訳ございませんでしたああっ!!!」
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