私んちの婚約者
試着室のカーテンを勢いよく開けたら。
愁也が私を振り返った。


「……梓?」


その目が大きく見開かれ、無意識なのか片手が口元を覆う。

「……びっくりした。予想以上」

彼の顔が、耳まで赤い。

私はウェディングドレスを身に纏って。
エリカが貸してくれたティアラにベール、ジュエリーにメイクまでフル装備。


「綺麗だよ」


囁く愁也は幸せそうで。
……私も多分、同じ顔をしてる。


「今からそんなんで、本番平気なわけ?」

照れくさいのを誤魔化したくて、ちょっぴり意地悪く言ってみたなら、愁也は苦笑した。


「そうだな。……じゃあ本番で押し倒したくならないように、今しといていい?」

「っ!!……馬鹿!」

もうどうしようこの人。
でもはっきり拒否したわけじゃないって気付いたのか、愁也が私を抱き締める。

甘い香りが私を満たして。


「……一日も早く俺だけのものになれよ、梓」


恥ずかしげもなく、殺し文句を炸裂させる愁也。
ほんとに息の根止める気じゃないだろな、も~。

気の効くエリカがニヤニヤしながら出て行くのを横目で見て、私は愁也の背中に手を回した。

「とっくに、なってるでしょ。欲張り」

ふ、と微笑む気配がして。
愁也の腕に力がこもり、私を閉じ込める。


そうして私達は唇を寄せて、甘い甘いキスをした――
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