私んちの婚約者
結婚、婚約者
**
日本に帰り着いて。
空港を一歩出れば、懐かしい喧騒。
帰ってきたなあ、って感じ。

「電車、タクシー、リムジンバス、どれ?」

荷物を受け取りながら、愁也に家までの帰宅方法を訊ねたならば。
彼はあのプレートキーを指先に挟んで指し示した。

「神谷に車をまわさせた」

「はあ!?」

なんでまた『愁也様』!?
おいおい、神谷さんはあなたより年上だよね?
なんだか愁也にいいように使われてない?

「で、その神谷さんは?」

「梓と二人きりを邪魔されたくないから帰した」

ど、どこまで俺様なの?
てゆーか、神谷さんも神谷さんだ。良い歳した大人を甘やかしちゃあいけません!


とはいえ、公共機関で帰るにはへとへとな私には、ありがたくて。
駐車場に停めてあった愁也の車に乗り込んで、出発する。

愁也の運転する横顔は、やっぱり無駄に格好良くて、私はついつい見上げてしまう。
その視線に気付いた彼が笑った。

「あんまり見てると、襲うよ」

「高速道路のド真ん中で?」

とんでもない愁也の言葉に反撃してみるものの、やれるもんならやってみろ、とは言えなかった。
だってホントにやりそうなんだもん!!

少しだけ窓を開けて、ゆるやかな風を受けていたら、なんだか眠くなってきて。
そんな私に気づいて、愁也がふ、と微笑む。

「寝てていいよ、梓。着いたら起こしてやるから」


優しい言葉と。
優しい視線に安堵して。

私はついつい眠りに落ちてしまった。


「起きたら……頼むから殴るなよ」


夢うつつで、なんだか不穏な言葉が聞こえた気がした。
< 194 / 274 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop