私んちの婚約者
あらためて。

私、高宮梓。20歳、大学生。

父は中小企業の社長。
だけど婚約者とか、そんなお家柄じゃない。至って普通の、うっかり父が事業に成功しちゃったってだけの成り上がりの庶民。


父が連れてきたイケメン、天野愁也は25歳。

父の会社の社員らしい。
若いのに、プロジェクトリーダーとかなんとか。最年少で一気に主任クラスにのし上がった優秀な人材、なんだって。


その彼を自宅のリビングで私と引き合わせて、ニヤニヤが止まらない父は、本日2度目の爆弾発言をかます。


「パパね、来月からしばらく海外で仕事だから。
梓ちゃんその間、愁也君とここに住みなさいね」


……はああ!?

支離滅裂。
てかパパとか言うな、いい歳して。


「何でわざわざ一緒に住まなきゃならないのよ!一人でいい!」


母は小さい頃に亡くなってるから、私は父と二人で暮らしてきたんだけど。

何で良くも知らない、しかも男と!?


父はもう大丈夫ですかと言いたくなるくらい嬉しそうな顔で言う。

「まあまあ、梓ちゃん。
愁也君ほどの優良物件、そうそういないから。
ちゃんと捕まえといてね、色仕掛けで」


「父親のセリフじゃないわああっ!!」


ーードゴッ!

私の放った拳は見事に父の顎にクリーンヒットした。

念のために言っておくが、これはうちデフォルトのコミュニケーションで、家庭内暴力などではない。絶対!


ソファに腰掛け、腕組みをして静観していた愁也は、私を見てーー鼻で笑った。


「……色仕掛けで、ねぇ?」


完全に馬鹿にしてる。

ム、ムカつくっ……!!
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