私んちの婚約者
向かいあって、指輪を嵌められ、彼にも同じように嵌める。
これもいつのまに用意してたのかな。
婚約指輪の時も、ドレスの時も思ったけど、なんでこんなにサイズぴったりなんだ……!


「誓いのくちづけを」


私は固まった。

「人前で、するの?」

小さな声で愁也に問う。
心の準備が整ってなかったせいか、ちょっとだけ躊躇する。

ほっぺたとか額じゃだめ?
いくらイタリア帰りでも羞恥心てものがあるんだ。

「人前でするから誓いのキスなんデショ。イタリアではしてくれたじゃないか。人前で二回も」

愁也が私だけに聞こえる声で囁く。

に、二回??

酔っていた時のコトを覚えていない私は、その言葉に動揺した。
愁也がベールを上げる。

「もう観念しろよ、梓」

……それは悪役の台詞だぁっ!!

軽く唇が触れて。
すぐに離れたことに油断したら、次の瞬間には、強く引き寄せられた。

「――ん――っ!!」


愁也の唇が深く深く、私に重ねられる。


何してんだーっ!


途端に光るフラッシュと、歓声と、一部怒声と、父の嬉しそうな声。

「愁也君、愁也君、こっちにピース下さい!ハイビジョンでばっちり収めとくから!」

こらこらこらああっ!!

本気でそのまま押し倒されそうな危機感を感じて、できる限りの力で愁也の肩を押し戻そうとした。

「ちょっと、愁也っ」

く、結婚式ってこんな鬼気迫るもんだったっけ!?

「せっかくの晴れ舞台だし、皆に俺達のラブラブっぷりを御披露したいなと」

そんな過剰サービスはいらん!!

けれど腕力でも、その色仕掛けでも勝てるわけも無く、私は散々暴れたあげく諦めて瞳を閉じる。
異常に盛り上がるチャペルに、異様に盛り上がる招待客。
色んな喝采を浴びながらの結婚式――。
< 206 / 274 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop