私んちの婚約者

職場までは車通勤とのことで、愁也の運転で、会社へと向かう。

彼の事だから何だかカッコいいスポーツカーと思いきや、普通に国産セダン。私は車の事はあまり詳しくない。でも中も外もちゃんと綺麗にしているのは良く分かった。父の車なんて会社の資料とか、受付嬢に貰ったお菓子とか、後部座席にほいっと置いてあるもんね。いいのか、社長。


はい、もちろん。

運転する姿も、
無駄に、無駄に!
格好良いわ、この男は。

ああ、愁也病の初期症状じゃないでしょうね……。

予防!予防!
換気だ!


ガーッとパワーウィンドウボタンを押した私に、彼がちらりと視線を投げた。

「梓、窓から顔を出さないでね」

「小学生か、私はぁあっ!!」


思いっきり抗議したならば、またまた楽しそうに笑い出す愁也。


「愁也さんてー笑い上戸だよねえー」

口を尖らせて言ったら、彼は首を傾げた。

「……いや、俺普段はあんまこんなに笑わない。梓と居る時だけだな。
おかげで顔と腹が筋肉痛なんだよね」


……今なんかうっかりスルーしたい台詞があったぞ。

わ、私と居る時だけ?

そりゃ見た目はクールっぽいっていうか、淡白そうだけど。
こんなに人の顔見て笑っといて、そんなーー思わせぶりな台詞を吐かないでほしい。乙女偏差値が皆無な私でも砂を吐きそうだ。


「だから、梓!
顔も手も出しちゃダメだって。あんた小学生以下だな」


うるさい、今すぐここから逃げ出したくなったんだい!
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