私んちの婚約者
***
「誤解されるような言い方はやめてよね」

あたしは透也と並んで歩きながら、ぶつくさ呟いた。
さすがにおベンツでの送迎は断ったわよ。
透也があたしを送ると言ったときの、あの悠のニヤニヤ笑いを思い出すとげんなりする。
次に会った時には殴っておこう、うん。

「誤解?」

「……なんでもないわ」

ダメだこのピュア男は。
あたしの言葉の意味など考えもせず、透也は微笑む。
その無防備な顔に微かな苛立ちを感じてしまう。

「梓の友達なら、守らなきゃだろ。俺の義姉の親友だぜ」

客観的に見ればそうなるのかもしれないけど。

「義姉って言われるとスッゴく違和感ね~」


しかし。
……やっぱりあたしは『梓の友達』扱いか。
悪気はないんだろうけど、ちょっとだけ胸が痛む。

……いつまで透也は梓を想ってるんだろう。報われないのに。
あたしはなんだかこの男が哀れになる。
良い奴なのは確かなんだけどなー。

「あんた早く彼女見つけた方がいいわよ。やっぱり合コンしたげるから」

「お前は?」


不意に向けられた視線に、気のせいだったはずの“どっくん”がまた蘇った。

「……え?」

「お前は、彼氏作らないの?」

ああ、そういう質問か。

「できないのよ。理解不能よねぇ、こんな美人なのに」

「“作らない”んだろ」


……たまに透也は凄く、真実を突いてくる。

確かにあたしはここぞって時に、一歩引いてしまうクセがある。
だから男友達は多いけど、彼氏はなかなかできない。
梓はあたしを恋愛大先生なんて言うけど、自分の恋愛は全然ままならないものなのよ。
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