私んちの婚約者
「なにそれ、ひっどくない!?……あ、でも愁也も最初はそんなんだったよ」

梓さん――蓮也さんの異母弟の奥様が、プンプンと怒りながら言う。

「でも大切にするとは仰ったんですのよ。私そんな蓮也さんも好きなんです」

「葵ちゃんッ……けなげ!!あんな魔王にはもったいないよ!」

そう言って梓さんは私に抱きついてくれる。
可愛くて優しい方。


「……なんでお前がここに居る」


振り返れば、蓮也さんが部屋の入口に立っていた。
質問は梓さんに向けられたもの。

「え~会長が孫の顔見たいってうるさいからさ~。帰国したついでに寄ったの」

梓さんが示したのは膝の上からコロンと寝返りをうった、小さな可愛い赤ちゃん。
彼女の娘の梓音(しおん)ちゃん。
そちらにちらりと目を向けて、蓮也さんは再度梓さんに問う。

「で。お前は何で年上の彼女を“ちゃん”呼ばわりなんだ?」

「友達になったから」

ケロリと言う梓さん。
そう、私達は今日会ったばかり。
なのにまるでずっと前からのお友達みたいに、意気投合していた。
蓮也さんは溜め息をついて部屋へと入ってくる。

「あの腹黒亭主はどこだ」

「その腹黒はあんたの弟ですけど!?会長んとこ」

ぽんぽんと会話する梓さん。
蓮也さんはふかふかカーペットで、ハイハイをしていた赤ちゃんを抱き上げた。

「やあ、梓音。父親には似るなよ。母親にはもっと似るなよ」

「……にっ似合わない、蓮也に赤ちゃん!まさかの子供好き!?」

梓さんがのけぞった。

「赤ん坊は可愛くて愛されるべきものだろう。そういうふうにできている」

「素直に好きって言えば」

私はドキドキする胸を押さえるのに必死だった。
梓音ちゃんを抱く蓮也さんは、凄く優しい顔をしているから。

「羨ましいですわ、梓さん。私、蓮也さんにあんなに喋って頂いたことありませんっ」

思わず両手を握りしめて訴えれば、梓さんは嫌そうな顔をした。

「あんなのただの喧嘩だよ?葵ちゃん、頑張って!いざとなったら呑ませて押し倒せばいいよ」

「わかりました!わたくし頑張りますわ!!」

「……本人の前で不穏な企みをするな」
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