私んちの婚約者
「きゃ、あ……っ」

思わず漏れた声に自分で驚く。

蓮也さんは構わずに強くそこを吸い上げた。
首筋にチリ、と熱のような小さな痛みが走る。


「や、やめて……っ!蓮也さ、ん……っ!」

「人形でいれば可愛がってやる。こうされたかったんだろう?」

蓮也さんは私の言葉なんて聞こえないかのように、私の身体を弄りつづける。

私、また怒らせたの?どうしよう。
どうしたら、彼は私の言葉を聞いてくれる?

「お願いっ、やめてください……!」

ダメもとで突き飛ばした腕に、彼はあっさりと離れた。

「気持ちなんて、俺には要らない……!」

吐き捨てられた言葉に、胸がズキンと痛んだ。


そうじゃないって、それじゃダメって言いたいのに。
どうしていいか、わからない。
思わず伸ばした指先は、彼に振り払われた。

「――っ……」

あからさまな拒絶に、泣きたくなる。

だけど

どうして蓮也さんのほうが苦しそうなの?


「私が、あなたを傷つけてるんですね」

私は蓮也さんの瞳を見つめて言った。

「私が、あなたを恐れさせるんですね」


隣に立ちたかった。
傍に居たかった。

でも。


「私が、あなたを苦しめるんですね」


蓮也さんは、怯えた子供のような目をして私を見る。
そんな顔をさせたのは、私なのね。
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