私んちの婚約者
そして次の日、私は、神前家に婚約解消を申し出た――。


「もうばっかじゃないの!?蓮也ってば最低っ!」


滞在していた梓さん達が近々イタリアに戻られるというので、挨拶をしようと神前家を訪れて。
彼女に全てを話した。
梓さんは自分のことのように怒ってくれる。それが嬉しい。

神前の本宅はもの凄く広いから、こちらから会いに行かない限り、同じ家の中に居ようと蓮也さんと顔を合わせることもない。
彼の顔を見たら泣くかも、なんて心配することもなく梓さんに会えて、私は少しほっとしていた。

でももうここにも出入りできなくなる。
ただでさえ海外暮らしの彼女と、めったに会うことも無くなってしまうかもしれない。

それが、とても寂しい。


「良いんです。私は蓮也さんに幸せになってもらいたいんですから。私じゃ無理なら仕方ありません」

無理して浮かべた笑顔は苦々しいものになった。

「本当にそれでいいの?なんなら私があいつを2、3発殴り倒してくるよ?」

梓さんが言うと、彼女の旦那様――蓮也さんの弟、愁也さんが口を開いた。

「梓はちょっと落ち着いて。とりあえず、その花瓶を置きなさいね。葵さんはどうしたい?」

蓮也さんによく似た声に、優しい言葉を掛けられて、思わず涙が滲む。


どうしたい?
どうしたいか、なんて。

私は……。
私、は……。


黙って見守ってくれる、梓さんと愁也さんの優しい顔。
梓音ちゃんの小さな指が私に触れた。
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