私んちの婚約者
は、と気付けば、フロアの入り口でいつまでも睨み合いする私達は、いつの間にか社員達の注目の的になっていた。


あ、しまった。


「あの、チーフ、そちらは」

おずおずと聞く女性社員に、
愁也はよく響く声で答えた。

「高宮社長のお嬢様、梓さん。
私の婚約者でもありますから、宜しく」


瞬間。


――えぇええっ!!?



とあちこちで悲鳴が上がった。


う。


女性社員の視線が、
視線が痛いっ!


そういやこのビルに入った瞬間から、なんだかものっすごく見られていたのよね。
キラキラ笑顔全開で「おはようございますう」とか愁也に挨拶してくる女性社員達は、その隣に居る私に目を向けた瞬間ギョッとして、それから思いっきり敵意あるまなざしを向けてきたんだ。そのわかりやすい反応に、ああこりゃヤバいなとは思っていたのだけど。

どうやら天野愁也は、女性社員ほぼ全員の憧れらしく。

彼を狙ってる女性もいっぱいいるんだと、神谷さんがコッソリ教えてくれた。


「でもどうやら天野チーフはそういうのがうっとおしいらしくて……。まあ婚約者がいるとなれば、少しは落ち着くのではないですかね」

苦笑いで言う神谷さんの言葉にピンときた。


朝一番、いきなりの婚約宣言は。


……あの野郎。
女除けに私を利用したな。
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