私んちの婚約者
だったらどうして、抱き締めたりするの。

彼から離れようと、手に力を込めた。
けれど蓮也さんは私を離さない。


「……そう思ってた。それでいいと思ってた」

え?

私は思わず蓮也さんの顔を見上げた。
そこに彼の唇が降ってきて、私の唇に重ね合わされる。

「!?」

嘘……。

触れるだけのキスから、だんだん深いそれへ。私を熱くする。


「神前家に寄ってくる女はいくらでもいる。けれど私を望んでくれるのは、あなただけだ。わかっていたのに私は信じられなかった。……でも」


蓮也さんは、私を強く抱き締めた。


「あなたの泣き顔が頭から離れない。
あなたの言葉が耳から離れない。
逃げるなんて許さない」


蓮也さんて、こんなに情熱的な人だったかしら。

「私は……、俺はあなたを」

私の知らない彼が、まだまだ居るのかもしれない。

そんなとこも、すき。


「あなたを愛してる。もう一度、婚約しよう、葵」


キスの合間に囁かれた告白に。


「はい……」


私は涙を溢れさせて頷いた。
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