私んちの婚約者
***

何なんだろう、この状況。


家庭教師に来て、早5分。
何故か私は床に押し倒されていて。

見上げた先に、『イイコ』であるはずの男子高校生ーー隼人(はやと)くん。


「……えーと、どういうことかな」

しらっと呟けば、隼人君がニヤリと笑った。

「なにそれ、誘ってんの?それとも天然?」

今時な髪型に、すらりとした体躯の、なかなかのイケメンーーらしいが、桁外れな愁也が基準になっている私にはよくわからない。

「え、この状況見てわからない?女子大生のカテキョっつったらそっちでしょ」

……。


“ドゴッ!!!”

ーー私は思いっきり、彼の急所を蹴り上げた。


「ーーっっっ!!?」

「この、馬鹿共め!!そんなん起こるのはマンガかエロアニメだけだ!直ちに現実に帰還しろーー!」

形成逆転、私は立ち上がると、涙目でのたうちまわる少年を見下ろして、言い放つ。
まったく、オトコってのは皆こうなわけ!?

「ああ、無駄な時間とHPを消費しちゃった。今ボス敵が現れたら、あんた一人で何とかしてよね」

「お前こそ現実に帰還しろ!」

何とか起き上がった隼人君が、噛み付くように反論した。
む、意外に打たれ強いな。


「なんでこうなるんだ?大抵のAVとかじゃこのままなだれ込みで……」

隼人(もはや呼び捨てだ、こんな奴)がブツブツと呟くのを私はジトリと睨みつける。
こらこら、健全な高校生にあるまじき発言してるよ、君。
だいたい君、まだ18歳になってないだろう。そんなもの観られる年齢じゃないよね!

「合意も好意も無い場合、犯罪っつーのよ、それは。だいたい私とどうこうしたい訳?」

隼人は私の言葉に反射的にこっちを向いて。
上から下まで視線を走らせる。

「……いけなくも、ない、かも?」

「そこへなおれ、大馬鹿者っ!成敗してくれるわ!」

なんて失礼な!
こいつのどこが良い子なのよ、阿呆父め!

「うわっ、すいません!ごめんなさい!!」

机の上にあったテキストをまとめて振り上げたなら、隼人は慌てて謝る。
けれど背けた顔でしっかりと呟いた。

「……あんたって社長令嬢なんじゃないの?その割に乱暴な女だなー……」

聴こえたぞ、しっかり。
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