私んちの婚約者
私は彼を冷ややかに眺めながら、反論する。

「しっかりちゃーんと、社長令嬢よ。婚約者だっているもんね」

「えっウッソお」

私に向き直った彼は、興味津々といったように聞いてくる。

「どんなやつ?やっぱ政略結婚なの?」

なにこの食いつき。
なんでそんなこと聞くんだろうと思いながらも、真正面から素直に聞かれてしまうと私は正直に答えてしまう。

「父の会社の社員でね、最初は父が連れて来たんだけど。でも今はお互いちゃんと気持ちがあって、付き合ってるよ」

その言葉に隼人は少し考え込むように俯いた。

「そいつの、どこが好き?」

き、聞いちゃう?そゆこと。
けれど隼人の目は真剣で、からかっている訳じゃないみたい。


「……すっごくカッコイイし、すっごく優しいし。私がピンチの時には、必ず助けてくれるよ」

……たまに魔王で変態だけどさ。


愁也を想って思わず笑みが浮かんでしまった私に、隼人は目を見開いた。
その様子に私は首を傾げる。

「何よ」

「今、お前どーゆー顔してるか、わかる?」


どういう?私、変なの?
私は顔を押さえた。

「どゆこと?」

隼人は頬をかすかに染めて、うろたえる。

「って、そんな」


「可愛過ぎる上に、なーんか妙に色っぽいんだよね。
でもそれ、俺の為だから。勘違いは駄目だよ、少年」


割り込んだのは、ここにいる筈の無い彼の声。
よく通る声は、毎日私が聞いているもので。

まさか、まさか。


「そりゃー梓のそういうとこにグラッとくるのはわかるけど?少年に扱えるような女じゃないよ」

私達のそばに頬杖をついてしゃがみこんだスーツ姿のイケメンは、にっこりと笑った。

「な、な、なんでここに!?」

私は愁也を指差して問う。
怒りだか驚きだか、とにかく混乱中の私を見て、ひどく面白そうにしているのは、間違いなく彼だった。


「ていうか、あんた誰」

「噂の梓の婚約者」

隼人の問いに、彼はさらりと答えた。

噂の、って。
ーーいつから聞いてた!!

私は頭を抱える。
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