私んちの婚約者
***

「じゃあ、頑張ってね。勉強も……彼女のことも」

帰り際、そう言って隼人に笑えば、彼は少し照れくさそうにうん、と頷いた。
やっと高校生らしい可愛げを見られた気がするなあ。
そんな私の隣で、愁也も隼人に別れを告げて。

「じゃあね、少年」

「はい!師匠!」

……先生しに来たのは私なのに。
なんで愁也は“師匠”まで株が上がってるわけ?


「今日教えたアレとかコレとか、忘れんなよ」

「ハイッ!ありがとうございました!絶対忘れませんっ」

アレとかコレとかって、さっき二人でこそこそ内緒話してたソレか。

「一体何を吹き込んだの……」

私の疑問に愁也はにっこり。
ああ、嫌な予感しかしないんだけど。


隼人の家を出ようとして玄関まで来ると、ちょうどドアが開いて女性が入って来た。

「ただいま……あら?」

隼人のお母さんにしては若い。
隼人が彼女に声を掛ける。

「ああ、おかえり姉ちゃん」

お姉さんか。
隼人とは少し歳が離れているようだけど、でも似てるかもしれない。
でもどこかで見たことがあるような。

私がそう思って見つめていると、隣で愁也があ、と呟いた。


「……ユウリさん?」


ユウリさんと呼ばれた女性は目を丸くして、愁也をまじまじと見つめた。


「……愁也くん?」


その顔に、思い当たる。

このひと、知ってる。

ーー写真で見た、愁也の昔の彼女。


『家庭教師』の女性だーー。
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