私んちの婚約者
私今日帰れるかな。
後ろから刺されたりしないかしら。

なんて不安になるほど、『天野チーフの婚約者叩き』トークは白熱している。
うう、皆さんその情熱は、ぜひとも仕事に活かしてくださらないものか。


そのとき、

「こら。ダメよそんなこと言っちゃ」

落ち着いた涼しげな声が、彼女達を諫めた。


おぉ、オトナだ~!
もっと言っちゃって、お姉様!!
ついでに仕事せえよって、言っちゃって!


興味を覚えて、給湯室をちょっと覗いてみる。
一人の若い女性が、奥に居たもう一人を振り返ったところだった。


「だけど三崎さん、天野さんと付き合ってたんじゃないんですか!?絶対三崎さんの方がお似合いなのに」


そこには。


綺麗な巻き髪の、美人がいた。


柔らかだけど隙がなさそうな、いかにもキャリアウーマンて感じで、スーツを着こなしてる“大人の女性”。


待て待て待て。

――愁也の、元カノ?

いや、そもそも、“元”かどうかだって。


頭をよぎった考えに、なぜか自分でも息を吞んだ。


「さあ、愁也の考えは私にはよくわからないから」

困ったように笑う、美人さん。


てか、今、『愁也』って。
彼女が呼び捨てにしたことが、ひっかかってどうしようもない。

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