私んちの婚約者
「ああ、やっぱり透也にはあげたくなぁい!」

透也とマキと別れて、家に向かうタクシーの中。
私はふるふると頭を振った。

「よく言うよ。あんなに透也を煽っておいて。まあマキちゃんのためだもんな?」

愁也が笑って私の頭を撫でる。


「……ねぇ、梓。
俺にもしてよ、ああいうの」

「……ああいうのって?」

警戒心てんこ盛りで聞けば、愁也は色気三割り増しで私の顎を捕らえた。

「ほら、あーん」

反射的に口を開ければ、そこに彼の唇が重ね合わされる。


……イタリア暮らしで、だいぶ拍車がかかってる色仕掛け。
でもここタクシーん中なんだってば!!
日本人なら慎み万歳だ!

「ご当地ルールに従わんかぁっ!!」

ぐいぐいと愁也の顔を押してキスから逃れようとするけれど、もちろん私の力じゃビクともしない。
いっそう妖しく微笑む旦那様は、もはや色気過剰振りまき迷惑防止条例とかで、取り締まってほしいレベルだ。
そんなことを考えている私に、愁也は婉然と言い放つ。


「それより、俺のルールに従って貰おうか。奥様?」


……とんだ亭主関白だ。
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