私んちの婚約者
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久しぶりの大学。

「なっつかし~」

四年間通うはずの半分、イタリアに居た私にはなんだか母校って気がしないけど。
それでも懐かしい。

「結構広いな」

私を送って来てくれた愁也と一緒に、キャンパスを歩いていたなら。


「あ~、高宮梓!?」

誰よ、人のこと指差してる無礼者は。
って、

「あはは、教授。お久しぶりですぅ~」

「高宮てめぇ、ことごとく論文を他人に書かせやがって。卒業させねぇぞ、コラ」

ひえぇえ!

そう言って相手はガンガン近寄ってくる。
……この若い教授は口が悪い。フレンドリーで生徒には人気があるけれど。


「その代わりにその優秀な助手を紹介したじゃないですかあ~!」

慌てて愁也の後ろに隠れると、教授は驚いたように彼を見る。
愁也は軽く会釈を返した。教授はそんな愁也を見つめて首を傾げる。

「神前?」

「俺のイトコです」

私が生贄に差し出した透也が、教授の後ろからやって来た。
ああ、イトコってことにしてるのね。
確かに同じ歳の異母兄弟なんて説明は面倒。


「へぇ、よく似てるな」

教授は感心したように言ってから、ハッと思い出したように私を見た。

「たーかーみーやぁぁ」

その手に頭を掴まれそうになって慌てて逃げる。
私はUFOキャッチャーのぬいぐるみじゃない!!


「失礼。もう彼女は“高宮”ではないんですよ」

愁也が柔らかな声音で私と教授の間に立った。

「あ?あぁお前、結婚したんだっけ?って、君が旦那か」

「天野と申します」

……愁也のにっこり、に教授は少したじろぐ。
こ、これって、もしかして。

ちょっと嫌な予感に、私はちらりと彼の顔色をうかがってみたけれど。


「とにかく、後でちゃんと卒論見せに来いよ」

教授はなんだか不自然に離れて行った。
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