私んちの婚約者
と、そこにキャ~という黄色い悲鳴があがった。

「やだあ、神前さんだあ~」

「きゃ~もう一人の人もスッゴくカッコイイ~」

「神前さんに似てない?」


……愁也のことですかね。
これがマキちゃんの言ってた“透也激モテ現象”?
なんて分かりやすいブームだ。
ついでに愁也まで目を付けられた。

「これは私の旦那様ですけど何か!?」

私は愁也にしがみついて、後輩らしき彼女達を睨みつける。

このひよっこが!
人の旦那に色目使うなんざ、百年早いわ!

「あ、何それヤキモチ?」

愁也がひどく嬉しそうに私を見下ろした。

「――そうだよ、悪い!?」

なんだか悔しい。
そんな私に通りかかった男子学生達が声を掛けてきた。

「あー梓ちゃんだー」
「相変わらず可愛いね~」

愁也がそちらを睨みつける。

「俺の妻ですが何か?」


男子学生たちはすごすご離れて行った。
ごめんにゃさ~い。


「……それヤキモチ?」

「当たり前」

事も無げに言う愁也。
私たちのやりとりを呆れた顔で見ていた透也が、携帯を開いて言った。


「バカップルの漫才はそれくらいにしとけ。俺次の授業の用意があるから、もう行くけど。梓、ちゃんと教授に論文提出に行けよ」

う、そうだった。
透也を見送って、私はバッグから論文を引っ張り出す。
ちゃんと自分で書いたやつを、だ。

「卒業式まであと何日もないのに、あの教授だけしつこいんだよね~」

他の先生たちは『合格』をくれたのにさっ。

「梓の気をひいてるのかも、ね?」

愁也が少し機嫌悪く言う。

「だからあ、考え過ぎ!私提出してくるから、カフェで待っててね」

「俺も一緒に……」

絶対喧嘩売るつもりだ!!
本当に卒業出来なくなったらどうすんのさ!

「一人で行きますぅ!」

私は愁也を置いて駆け出した。
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