私んちの婚約者
男子共は怯んでる奴が大半だけど、あのボス猿が私を掴んだ。

「梓ちゃんは俺のものだ!」

……もう死ね。
いつ何時そんなことになったんだ!?

そしてボスの勝手な物言いに、子猿たちが騒ぎ始める。

「えっ、なんだよみんなのものだろ」
「てめ、裏切り者」

この馬鹿者共が!!
もっと早く気付け!

「離しなさいよ、この妄想野郎!」
「うわっ!!」

私はボス猿の腕に噛みついた。
奴が怯んだ隙に愁也の腕が空を薙いで、そいつを殴り飛ばす。

ーードゴッ!

おお、夫婦の共同作業、息ぴったり。
すぐ後ろの壁に叩きつけられてへたり込んだ男の肩を、『ダンッ!』と音がするほど強く、愁也の足が踏みつけてそこに縫い止めた。

人間標本……。
す、すごいよ、愁也様。


「お仕置き程度じゃ満足出来ないな。
何せ梓を縛るなんて、俺ですらやったことないコトをしやがったんだもんなぁ?」

愁也はめちゃくちゃなセリフを吐いて、それはそれは妖艶に笑った。
だけど目が笑ってない。
はっきり言って、凄く、怖い。

彼は男を足で押さえつけたまま、携帯を開いた。


「真中?警察呼んだ?ああ、ありがと」

愁也が呼びかけた名前に、透也が目を剥く。

「あっ!?何でお前うちの執事を勝手に使ってるんだ!」

「後継者騒ぎんときに連絡先交換した。俺らメル友」

「なんだこの出し抜かれた感…真中ってば俺の言うことは何にも聞いてくれないのに」

ガックリくる透也は放っておいて。
愁也は私に微笑みかけた。


「梓はどうしたい?
何なら始末させようか。

大丈夫、東京湾は広いからな。
そこの7人くらい沈めても、環境汚染にはならないよ」

とんでもないことを言ってのける。

「しゅ、愁也っ!」

「ダメ?」

可愛く首を傾げる愁也に、私は騙されそうになりつつ、必死で止める。
いくらなんでもそれはやりすぎだよね。


「お前ら良かったな。命拾いしたぞ」

透也が私の縄をほどきながら、実感こもった声でしみじみ言って。

「梓に“ごめんなさい”は?」

とどめは愁也の悪魔の微笑み。


「「「すみませんでしたああっ!!」」」


部屋に小猿の大合唱が響いた。


「二度とこんなことしないでくれたらもういい。……けどあんたは一発殴らせなさいよ、お返し」

にやりと笑って、私はボス猿の腹に拳を叩き込んだ――。

潰れたカエルみたいな呻き声と共に、ボス猿、調教完了。


ざまあみろ!
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