私んちの婚約者
「ーーっ」


愁也は少し荒く息をついていて。

その額に一筋汗が流れた。


髪をかきあげるその仕草が、
私を射抜く視線が、
色っぽくて、息が止まる。



「……いりゅーじょん?」

「階段走って来たんだよ、馬鹿!」

私のとぼけた質問ごと、愁也が怒鳴りつけた。


わかってるわよぉ。


「そんなに怒ることないじゃん……」


ちょっとボケたくらいで怒られる意味わかんない。

でも彼の登場で、少なからず安心した自分がいる。


助かった、って。


ズルズルと座り込みそうになったけれど、なんとか堪える。
しかし上のフロアに居た彼が、どうしてここに居るんだろう。しかも階段使ってまで。

「あれ?愁也さんは何しに来たの?」

私何か忘れ物したっけ?


私が愁也にキョトンと聞けば、神谷さんがクスクス笑った。


「興味無い婚約者のために、天野チーフが6階分も走るかな?
ねぇ梓お嬢様」


どゆこと??


私はよくわからないまま、神谷さんと愁也を見比べた。


愁也は神谷さんを睨みつけていて。


その頬が何となく赤いのは、走ってきたから、だよね?


「愁也さん……?」
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