私んちの婚約者
やっと家に着いて、タクシーから梓を引きずり出す。

「梓、着いたよ」


梓は半分寝たままの様子で、玄関にバッタリ倒れて動こうとしない。

子供か。


「梓」

「ふぁいっ!」

元気よく片手を上げて身を起こした彼女は、やっぱり子供みたいで、そのまま『ハイ元気です』のポーズ。
仕方ないので靴を脱がせてやっていると、またぱったりとそこに倒れた。なんだこれ、なんかのオモチャか。

「梓」

「へぇい〜」

更に酔いが回ったのか、もはや会話不可能。

溜息を吐いて彼女の腕を掴んで抱き起こせば、梓が上目遣いで俺を見る。


「あれぇ?しゅーや?」


にっこり、微笑む無防備全開の微笑みを向けられて。


こいつ、こんなときばかり。


可愛い。


気が付けば、唇を奪うようにキスをしていた。



「ふむむ?」


なんだかもごもご言っている彼女がムードぶちこわしだけど、まあいいか。
しばらく梓の唇を堪能して、身を離せば。


「しゅう、や?」


いやがる様子も無く、拳も飛んで来る事無く。
ただ可愛らしく首を傾げる彼女を引き上げて、もう衝動のままに俺の部屋まで連れて行き、ベッドにその体を押し倒した。

梓はわかってるのかわかってないのか、ふふ、と甘い声で笑う。


こいつ危機感ねぇな。
日頃あんなに憎まれ口を叩くクセに、警戒心皆無だ。

俺が連れ出さなかったら、この顔を他の男に見せてたんだろうか。



それ、ムカつくかも。



梓の首筋にキスを落とせば、彼女が俺の両頬を掴んだ。


「くすぐったい……。
馬鹿イケメンめ」


……それ、褒め言葉ではないよな。


日頃梓が俺をどう思ってるのか、よーくわかるんですけど。

やっぱり変な女、と止めようとした俺の首に細い腕が伸ばされて。



ーー梓が俺にキスをした。
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