私んちの婚約者
「……んッ!?」


不意打ちに、驚いてしまったのは一瞬で。


あ、こいつのキス、
気持ちイイ。


潤んだ瞳で、ふわふわ微笑む彼女。

いつも怒ってばっかりだから、
見たことない可愛い顔。
(怒らせてるのは、俺だけど)


柔らかな腕が絡みつく。


「愁也……」


梓が甘えるような声で俺の名前を呼ぶ。


何故かそれが嬉しくて、梓の熱に溺れた。



あの夜の詳細を覚えていない梓は、目覚めたときには物凄く動揺していた。
奇声を上げて真っ赤になって。
それが面白くてついついからかっては、また怒らせてしまう。


それも可愛いとか思うあたり、結構ハマり始めてるんだろうか。


「……あんなに愛し合った仲なのにな」

そう冗談めかして言えば、梓が反論してきた。


「愛なんか微塵もないくせに!」


……それは、お前だろ。


そう思ったが、何故か口には出せず、俺は黙って考えてしまう。


梓にとってあの夜は、
酔った勢いってヤツだ。


俺を好きな訳じゃない。


俺はそれが、嫌なのか?



梓が意地を張るように、俺も自分の気持ちに素直になれるほど子供じゃない。
けれど、だからって何もせずにただ見てるだけなんて達観出来ない。

かといって。
俺自身、彼女をどう思ってるかなんて、良く分からないんだ。


思考はあちこち行ったり来たり。

女との事で、こんなにも悩んだ事って無かった気がする。


それほど彼女は俺にとって、不思議な存在で。



恋愛とは程遠い。



……と、思っていた。

今日までは。
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