私んちの婚約者
決定的に、自分の気持ちを思い知らされたのは、社長の命令で梓を会社に連れて行った、今日のことだった。


「お綺麗になられましたね」

梓に挨拶に来た神谷は、彼女の笑顔を簡単に引き出した。自業自得とはいえ、怒らせてばかりの俺には向けられないはにかんだ笑顔。
それを見つめる神谷の視線にかすかな熱を見つけて、彼から梓を引き離す。


面白くない。

ーーそう思う自分が、確かに居る。


「帰っていいよ、邪魔だし」

こんな言い方をしたら、また怒らせるとわかっていたのに。


「なにそれ。全然わかんないんだけど」

案の定、膨れる梓。


解れよ。

そいつ、明らかにお前のこと狙ってるだろうが。
社内に入った時から、男性社員がお前をチラチラ意識してるだろうが。
お前が微笑みかけたそこの阿呆が、真っ赤な顔してぼーっとお前に見惚れてるだろうが。

もう一秒たりともここに居て欲しくない。



無防備な梓。

ムカつく。


……けど、目が離せない。


近づいた女性社員に梓のことを問われ、フロア中に響くように言ってやる。


「高宮社長のお嬢様、梓さん。
私の婚約者でもありますから、宜しく」


ざまあみろ、思い知ればいい。


梓は俺のもの。
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