私んちの婚約者
また梓を散々に怒らせた後、トイレに行って戻ってきた彼女の顔が青い。
「OL怖ぇ……護衛が欲しい」とかブツブツ言ってる。


なんだ?

聞こうとした俺を呼び止めたのは三崎恵ーー元カノ。

こいつが最近まで付き合っていた相手。
美人だし、仕事も出来るから、告白されて断る理由が無かった。けれど、半年程付き合っても、何だかハマりきれなくて、俺から別れた。

もともとさっぱりしている彼女とは、仕事でならいい関係が続いている。

散々手を焼かされた新しいプロジェクトがやっと形になったのもあって、一緒に担当した三崎も嬉しそうに書類を覗き込んできた。

けれど彼女と話していたら、急に梓がしかめっつらになっていくのに気付く。


「梓?」

「違うもんーー!!」


はあ!?何が!?


雄叫びの意味を問う間もなく、そのまま彼女は走って行ってしまう。


な、何事?


「三崎、悪い」

三崎に書類を押し付けて、梓の後を追った。


エレベーターに乗り込む彼女の後ろ姿と、

その後から、神谷が続くのが見えて。


扉が閉まる直前、振り向いた神谷が俺を見て、ふ、と目で笑った気がした。





胸がざわめく。


もう一基のエレベーターもまだ降りたばかり。

しばらく来ない。



何も考えられず、とっさに階段へ走った。
< 40 / 274 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop