私んちの婚約者
制限速度って何ですか、な今年の最速記録を塗り替えたであろうスピーディさと。
さすが最年少主任、見事な営業です、な有無を言わせぬナチュラル強引さと。
あんたはホントにどんなハイスペックなのという手際の良さで。

私は現在、こんな状態まで追いつめられております。


「無理ぃ!!絶対、無理だって!」


叫ぶ私なんて意に介さず、その距離をどんどん詰める愁也。


何で私はいつの間にか彼の部屋に連れ込まれてるのでしょうか!?
彼のベッドに押し倒されているのでしょうか!?

い、いりゅーじょん?
愁也マジックか!


「往生際が悪いな、梓」


悪役のセリフだ、それ。


これから甘い時間を過ごそうって雰囲気では到底無いのに、愁也は妖しく笑う。
私はそこから一生懸命目を逸らそうとするのだけど、哀しいかな、綺麗なもの好きな本能が囁く。

ほーら、今彼を見たら、極上の笑顔が見られますよ、眼福ですよって。


「こっち向いて」

甘い声で耳まで溶かされそうになった私は、やっぱりまともに彼の顔を見てしまって。


「い、命の危険を感じますっ!!」

「うん、息の根止めるかも」


あっさり返されて、もはや私に逃げ場なし。
犯行予告が大胆すぎるよ、愁也さん。


何故こうなったの?


ううん、
何でこんな事するの?


愁也が変になったのは、
神谷さんが私に言い寄ったからなの?

それって、ただ自分のオモチャを奪られるのが嫌だから?


そんなの。


「ひどい」


ポタ、と零れた涙に、
愁也が目を見開いた。


「あずさ……?」
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