私んちの婚約者
一度零れたものは止めようがない。
ポロポロなんて可愛いもんじゃなく、ボタボタと私は涙を溢れさせた。

……だけどこのドSなイケメン様は、それがいたくお気に召したらしい。


「梓、泣き顔可愛いな」


……はあ?


呑気な感想に、じわじわと怒りが増して、私は低く唸った。
今それどころじゃない!察して欲しい!


「眼科へ行け……!
いや、精神科、脳外科?」


それより泣かせて喜ぶとか、どんだけ変態なのよ。


そう総突っ込みしたいのに、私は愁也の『可愛い』に完全に動揺してしまっていた。


顔が熱い。

それを押さえるように、彼の手が伸びてーー唇まで降ってきた。


「ん……!」


キスしたまま、彼の手が私の服のボタンにかかって、それを手際良く剥ぎ取っていく。


なにこの早業。
なにこの手腕。


不意に開けられた胸元、
素肌に触れた手に、ぞくり、として。


「しゅ、愁也さん!
すとーっぷ!!」

流されそうな自分を必死で留めた。

「気持ちがわかんないまま、こんな事出来ない」


また中学生って馬鹿にされるかもだけど。
それでも、私は。


「本気じゃないなら、できないよ……」


愁也が溜め息をついた。


「そこは察してよ。
とか無理か、梓には……

こんなにあからさまなのに、わからない?」


え?
すみません、さっぱり。

キョトンとした私に、未だキスを落として愁也が囁く。


「梓は俺が好き。

俺も梓を『ピンポーン』」


……。
……。



二人の間に鳴り響いたのは、玄関のチャイム。


タイミング、悪すぎ。
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