私んちの婚約者

「梓、どいて。邪魔」


マキさん、恋は生まれません。


「愁也さんが避ければいいじゃん!」

「可愛くねーガキ」


んだとコラ!

マキさん、絶対絶対、
恋なんて生まれません!!


愁也との共同生活が始まって、3日目。

あのキスなんて全く無かったかのように、奴は傍若無人、自由奔放に振る舞っている。
学生と社会人じゃ生活習慣も違うし、食事以外関わりもなくて、正直何のために一緒に生活してるのかわからない。


ーーただ、食事だけは。


私が作って、呼べば愁也が一緒に食べる。


「あ、美味しい」


印象最悪な一日目に呟かれた彼からの意外な褒め言葉に、私は不覚にも嬉しくなっちゃって。

以来、食事当番は私。

だって、こんなに素直に喜んでもらえるとは思ってなかったんだもん。
……上手くのせられたのかもしれないけど、さ。


「あ、これも美味い。
梓の数少ない取り柄だね」


愁也の食べっぷりは正直気持ち良い。たくさん食べるけど、お箸使いとか姿勢が綺麗で。
思わずじっと見てしまった事をごまかすように、私は彼に不審な目を向けた。


「……愁也さん、私の取り柄の数を知るほど親しくないよね」


愁也はまたあの皮肉気な笑みで、私を見る。


「他の取り柄、あるなら教えてよ。
何なら、ベッドで」



……この人、最低。


恋、生まれません。
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