私んちの婚約者
接近、婚約者
***
愁也との生活も次第に慣れて。
会話も増えてきたと思う。

半分は喧嘩腰だけど。
……いや、八割方、喧嘩腰だけど。

でも軽い皮肉の応酬はあっても、最終的には噛み付く私に軽くいなす愁也って図になりつつあるのよね。
すっかり忘れていたけど、愁也は私より5歳も年上なんだから当然だけど。


「梓。今日俺、遅くなるから。夕飯は要らないよ」

当たり前のように告げてくる彼に、私も当たり前のように頷く。


あら、今日もスーツが良くお似合いで。
ネクタイを締める指とか、長くていいなあ。

「……梓、よだれ出てる」


……はっ、何か上手く丸め込まれていないか、私。


でもそれが、最初ほど不快で無くなって来たのも確かだった。



そんなある日、マキに大学の飲み会に誘われた。
さすが合コンクィーン、新学期始まってそんなに時間も経ってないのに、仕事が早い。

メンバーは同じサークルや学科の子達を適当に集めたらしいから、まあ本当に皆で騒ぐ会って感じで気楽なもの。

今までは何となく面倒で、ロクに参加したこともないんだけど、何故かものすごく勢いづいたマキに、

「キャンパスライフをエンジョイしなさい!!」
と強引に誘われて。


それキャンパスライフ違うしー。


連れて行かれたのは駅前の居酒屋。
お値段そこそこの割に、お酒も食事も美味しいと有名なところで、ついついお酒が進んでしまう。

20歳になって間もないこともあって、私実はまだそんなに呑んだ事無いんだよね。

ジュースみたいな甘いカクテルをぐいぐい呑んでいたら、いつの間にか隣に居たマキは奥のテーブルの爽やか君とお話しをしていた。


マキちゃんめ、エンジョイしたかったのは自分の方だな。


「ここ、いい?」

返事も聞かずに空いていた私の隣に座ったのは、大学でもモテ男の水樹(みずき)ユウ君。
カッコイイと評判だけど、ちょっと軽すぎるように見えて私はタイプじゃない。

「梓ちゃん、可愛いね~。彼氏いるの?」

バッチリ今時っぽく決まった髪型に、軽い言動の水樹君は人を集めやすくて、同じく幹事をする事が多いマキと仲が良い。
いつも彼女と一緒に居る私にも親切だから、イマイチ警戒しきれなくて、寄られるがまま曖昧に笑っていた。


けど。


「いないなら、俺と付き合わない?」


(近い、近い!)

いつの間にか、水樹君の腕が、私の肩に回ってる。


なんだこの人。馴れ馴れしいなあ。


「あっはっは。水樹君冗談ばっかりー」

超棒読みで答えた。

笑顔が引きつるーーけど、彼は全くもって気がついてない。酔ってご機嫌な様子だ。


空気読め、水樹。
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